離婚を申し出た政略妻は、キャリア官僚の独占愛に甘く溶かされそうです
自然とため息をこぼしながら歩きだすと、足元ばかり見ていたせいで軽く誰かにぶつかった。
「ご、ごめんなさい……!」
ぺこりと頭を下げて顔を上げると、そこには見知ったスーツ姿の人物がいた。
「せ、専務?」
彼の手のひらにはテンマくんをさらに小さくしたようなロボットが乗っている。専務は経営職の傍ら、ロボット事業部の業務にも携われるよう社長に直訴し、それが認められたばかり。
そんな彼が目下開発中の、〝心〟を持つロボットが、持ち主の代わりに喋る。
『ゲンキダシテ、ヨシノサン』
「えっ?」
『ヨシノサンガゲンキナイト、カイトサンフキゲン』
感情があるかのように、抑揚をつけた声でロボットが喋る。
ちらっと持ち主を見上げると、彼は照れたようにゴホンと咳払いした。
「テンマ三号、違う。仕事に支障を出されたら困ると思っているだけだ」
『カイトサン、ウソツキ、ウソツキ』
「うるさい三号。失敗だなこれは」
専務はぴしゃりと言って、三号くんを懐のポケットに入れてしまう。ふたりのやり取りがおかしくてつい笑みをこぼすと、専務が静かな目で私を見下ろす。