離婚を申し出た政略妻は、キャリア官僚の独占愛に甘く溶かされそうです
「ま、真紘さん!?」
《……うん。ごめん、心配かけて。俺は無事です》
間違いなく、真紘さんの声。そして無事のひと言に心から安堵し、体中の力が抜ける。
「よかっ……た……」
そう呟くのと同時に、涙で視界がぼやける。そのうち「ひっ」と声が漏れ、目からぽろぽろと涙がこぼれた。
考えないようにしていても、最悪の展開が何度も頭をよぎった。
真紘さんに二度と会えないんじゃないかって、不安だった。
《泣かないでよ。……つられる》
スマホ越しに、彼が洟を啜っている音が聞こえる。事件に巻き込まれていた彼は、私以上に怖い思いをしたのだから当然だ。
「どこも、怪我とかありませんか?」
《ああ。今病院にいて、なんともないことを確認してもらった。ただ、これからいろんなところに報告とか連絡とかしなきゃいけなくて、佳乃に会えるのは夜遅くになっちゃいそうなんだ。待っててくれる?》
「もちろんです、真紘さんの顔を見るまで眠れません」
《ありがとう》
ホテルの場所と部屋番号を告げ、名残惜しく思いながらも通話を終える。
スマホの画面はびしょびしょに濡れていて、壊れたら大変と慌ててハンカチで拭った。
それから大きな息をつき、ベッドに仰向けになる。張り詰めていた気持ちが緩んだのと、飛行機であまり寝ていないのとで、私は強い睡魔に飲み込まれていった。