離婚を申し出た政略妻は、キャリア官僚の独占愛に甘く溶かされそうです

 再会の喜びを分かち合った後、ソファに移動して真紘さんが事件の概要を教えてくれた。

 立てこもりを起こしたのは、ひとりのギリシャ人男性。彼は日本人女性と遠距離恋愛で交際していたが、数カ月前一方的に別れを告げられた。

 どうやら日本に新しい恋人ができていたようで、彼の恨みは日本人全体へと向けられるようになる。そこで、多くの日本人が働く大使館に目をつけた。

 真紘さんは休みを取っていたけれど、私がアテネに到着した後で仕事で呼び出される可能性をできるだけ潰しておくため、朝から大使館に出勤していたところ、事件に巻き込まれたそう。

 侵入した際の男性は銃のほかに爆発物も所持していたので、現地警察の突入も慎重にならざるを得なかったらしい。

「最終的にはどうやって解放されたんですか?」
「俺がネゴシエーションしたんだ。警察のそれとは違うかもしれないけど、緊急時だから誰かがやるしかない。FBIの交渉術に関する本もいくつか読んだことがあったし、こう見えて今は交渉が本職の外交官だ。一か八かでやってみようと思ってさ」

 事の重大さとは裏腹に、軽い調子で真紘さんが言った。

「えっ、真紘さんが!?」

 いくら彼が策士だといっても、一歩間違えたらかなり危うかったのではないだろうか。

 結局無事だったからいいけれど、話を聞いただけで心臓がバクバクした。

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