離婚を申し出た政略妻は、キャリア官僚の独占愛に甘く溶かされそうです
少し視線をずらし、今度はカレンダーを見る。今日、三月十日の日付には赤いペンで花丸印がついている。
私たち夫婦が結婚一周年を迎える記念日だからと、真紘さんが鼻歌交じりに書いたものだ。
『幸せにするよ、絶対』
挙式でそう誓ってくれた通り、彼はとても優しくて、結婚生活にはなんの不満もない。
それなのに、私は離婚届を用意している。真紘さんを愛しているからこそ、彼を自由にしてあげたいのだ。
抱けない妻に、無理して優しくしなくていい。
そう伝える代わりに、離婚届を突きつけると決めた。
出会いは一年半前。まだ残暑の厳しい九月上旬の日曜に、料亭で真紘さんと見合いをした。セッティングしたのは私の父、朝香重蔵で、父はお見合いにも同席した。
現職の国会議員である父は、自身の政治理念を引き継いでくれる後継者を探し、所属する党の若手議員や実績のある官僚の中から私の結婚相手を物色していた。その過程で父のお眼鏡にかなったのが、財務省職員の真紘さんだったのだ。
要は、政略結婚前提のお見合いである。