離婚を申し出た政略妻は、キャリア官僚の独占愛に甘く溶かされそうです
「そういえば、離婚届はどうしたんですか?」
ダイニングテーブルに置きっぱなしになっていた離婚届が見当たらない。隣で同じように立ってコーヒーを飲んでいた真紘さんは、カップから口を離して微笑んだ。
「捨てたよ。必要ないだろ、もう」
「……そう、ですね」
改めて言われると、昨夜の恥ずかしさが舞い戻る。照れた顔を見られないように正面を見たままカップを傾けていると、真紘さんの手がふと首筋に触れた。
指先でツッとなぞられる感覚に、思わず肩をすくめる。
「わっ! なんですか?」
「佳乃の制服って、スカーフ巻くんだよね?」
「はい、巻きますけど」
天馬モーターズは基本的に私服勤務だけれど、会社の顔である受付スタッフだけは別。制服の白とライトブルーの切り替えワンピースに、同系色のストライプスカーフを着けるのが決まりだ。
会社までは適当なオフィスカジュアルの私服で行き、一度更衣室で着替えなくてはならない。
「なら大丈夫か」
「大丈夫って、なにがですか?」
「いや、美味しそうな首だから他の男には見せたくないって思っただけ。実際美味しいってことも、昨夜知っちゃったしね」
真紘さんは悪戯っぽく言うと、触れていた部分にチュッと唇を押し当てる。
昨夜を境に真紘さんとの距離が一気に縮まったようで、朝から悶えそうになる。