離婚を申し出た政略妻は、キャリア官僚の独占愛に甘く溶かされそうです
「名残惜しいけど時間だ。行ってきます」
「行ってらっしゃ――んっ」
今度は唇にキスを落とされ、心拍数が急上昇。真っ赤になっているであろう私を見てクスリと笑った真紘さんは、「続きは夜にね」と甘い声で言い残し、廊下へ消えていった。
私は思わずその場にしゃがみ込み、弱々しく呟く。
「……し、心臓、持たない」
結婚生活自体を終わらせるつもりだったはずが、あろうことかこんなに甘い新婚生活が遅れてやってくるとは……予想外すぎて、色々といっぱいいっぱいだ。
キッチンでうずくまりながら深呼吸をし、荒ぶる脈と呼吸をなんとか整える。そして残っていたコーヒーを一気に飲み干すと、ようやく出勤モードに気持ちを切り替えて私も家を出た。
最寄駅から電車で十分。そこから徒歩三分ほどで、天馬モーターズ本社に到着した。
地上四十階建てのビルは社員であっても毎日のように巨大だなぁと感心するが、受付の私はほぼ一日中一階での勤務。社員食堂が高層階にあるので、ランチタイムにそこを訪れるのがささやかな楽しみだ。