離婚を申し出た政略妻は、キャリア官僚の独占愛に甘く溶かされそうです
「そうですか? 昨夜は寝不足なのにな……」
「ふふっ、それを言うなら私も。昨日の彼、下手なくせにベッドの上でしつこくて。恋人にはしたくないタイプだったわ」
雨音さんはうんざりしたように言うと、数個隣のロッカーを開け、自身も着替えを始めた。
雨音さんの恋の始まりはいつも体から。一度寝てみて、相性が良ければ付き合うし、そうでなければまた次の男性を探すそうだ。
完全なる肉食女子の雨音さんと私とでは価値観が違いすぎるけれど、だからこそ雨音さんの恋バナを聞くのは楽しい。大人向けの恋愛ドラマを見せてもらっているような感じだ。
「じゃ、その男性とはもう?」
「ええ、会わないわ。体の相性が悪い相手としても、苦痛なだけだもの」
そんな風にドライに割り切れるところがすごい。感心しながら、ハッとする。
ということは、私と真紘さんの相性は、決して悪くないということ?
頭の中に昨夜の甘いシーンが蘇り、ひとり頬を熱くする。
「あら? 佳乃ちゃん、あなたもしかして……」
着替えを終えた雨音さんが、突然近づいてきて私の背後を覗く。そして、まだスカーフを巻く前だった首の後ろに、指先でちょんと触れた。