離婚を申し出た政略妻は、キャリア官僚の独占愛に甘く溶かされそうです
『柳澤真紘です』
座卓を挟んで向き合った彼は、軽く自己紹介をしたきり無口だった。父からの質問には答えるけれど、私の方を見ようともしない。
政略結婚だから好かれる必要もないと思っているのかな。だとしても、これから生活をともにする相手なんだから、最低限の会話くらいしてくれたっていいのに。
父との話を聞く限り、財務省での仕事が忙しいようだし、これじゃただの仮面夫婦になる未来が見える。彼との縁談は破談にしたほうがいいんじゃ?
ひとり悩んでいると、『ちょっと電話をしてくるから、ふたりでゆっくり話しなさい』と父が席を外す。
彼とふたりきりなんて気まずいから、いてほしかったのに……。
心の中で父を引き留めていると、真紘さんが大きなため息をついたのでギクッとした。
ほら、彼だってふたりきりにされて困ってる。
いたたまれず俯いた瞬間、私の耳に信じられない言葉が届く。
『あ~、やっぱりダメだ。すました顔して黙ってるとか、俺には無理難題』
気の抜けた声に顔を上げると、真紘さんが先ほどまでとは別人のように親しみやすい笑みを浮かべていた。