離婚を申し出た政略妻は、キャリア官僚の独占愛に甘く溶かされそうです
「知ってる? これ、シャンディガフっていうの」
グラスを私の目前に掲げ、雨音さんが言った。
「いえ、ビールかと思ってました」
「半分正解。半分はジンジャーエールなんだ。ちなみに俺が作った」
雨音さんの向こうから、真紘さんが教えてくれる。どうやらこれもカクテルの一種らしい。そう言われてみれば、ビールそのものより透明感のある色だ。
「カクテル言葉は、無駄なこと。……本当に、私にぴったりのお酒だわ」
真紘さんが雨音さんのために作ったカクテルには、そんな意味があったんだ……。
やっぱり、真紘さんは浮気なんてしていなかった。薄々わかってはいたけれど、完全に疑惑が晴れてホッとした。
雨音さんはゆっくりグラスを置くと、椅子を回転させて体ごと私の方を向き、改めて頭を下げた。
「あなたにはなんの恨みもないのに、傷つけてごめんなさい。私が言うなって感じだと思うけど、これからも真紘さんと仲良くね」
「雨音さん……あの、私もごめんなさい!」
「えっ?」
雨音さんが、猫のような目をきょとんと丸くする。謝られる覚えはないかもしれないけれど、あんなにつらい過去を聞かされてしまったら、やっぱり黙っていられない。