離婚を申し出た政略妻は、キャリア官僚の独占愛に甘く溶かされそうです

 そのまま苦しげに畳に手をついた彼に、慌てて駆け寄る。着物の動きにくさをもどかしく思いつつ彼のそばにしゃがみ、背中にそっと手を当てた。

『しかも、優しいし、かわいいし……ダメだ、好き』
『な、なにを言ってるんですか? 救急車呼びますか?』

 具合が悪いせいか、変なことを口走る真紘さん。心配になって顔を覗き込むと、急に起き上がった彼が私の正面に正座し、ギュッと両手を握ってきた。

『結婚しよう、佳乃さん。きみと夫婦になって、本気の恋愛がしたい』

 ほ、本気の恋愛……? 胸の痛みはもういいのだろうか。

 ころころ態度の変わる真紘さんに面喰らって、私は目をぱちくりさせる。

『あ、あの……具合は?』
『平気。佳乃さんに結婚を断られなければ』

 真紘さんはそう言って、甘えた目をする。政略結婚前提のお見合いでまさかこんな展開になるとは思わず、私は軽くパニックに陥る。

 なぜかわからないけれど、真紘さんは私を気に入ってくれたようだ。しかも、恋愛したいとまで言ってくれている。

 ……私にも、まだ恋愛ができるのかな。

 戸惑いながら真紘さんを見つめ返し、自問自答する。

< 8 / 147 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop