離婚を申し出た政略妻は、キャリア官僚の独占愛に甘く溶かされそうです
「いえ、そんな……」
自信なく返事をしたその時、玄関で物音がした。
真紘さんが帰ってきたんだ。理解した瞬間、胸がドクンと揺れる。
「真紘ね? じゃ、私はそろそろおいとまするわ」
「えっ、お母様、もっとゆっくりしていってください」
「いいのよ、せっかく奥さんとゆっくりできる休日に母親が訪問してくるなんて、息子にとっては煩わしいに決まってるもの。紅茶、ごちそうさま」
からっと笑って、お母様は席を立った。見送らないわけにはいかないのでその後を追うと、廊下で真紘さんと鉢合わせる。
目が合った瞬間、私はつい視線をそらした。
「……なんで母さんがいるの」
「ほらね、佳乃さん。この言い草よ」
あからさまに迷惑そうな真紘さんに、お母様は口をとがらせる。
それでも本気で怒っているわけではなさそうで、軽い足取りで玄関に下り、出ていく前に私に手を振った。
「じゃ、佳乃さん。またお茶しましょうね」
私もなんとか笑顔を返したけれど、玄関のドアが閉まると、途端に気まずさで顔が強張った。