離婚を申し出た政略妻は、キャリア官僚の独占愛に甘く溶かされそうです

『母さんが女優業を引退して、今後は家族で日本に永住すると決めた。俺も、日本の大学を受験する』
『……そうなんだ』
『でも、時々会いに来るから。遠距離でも俺たち――』
『無理。絶対浮気するでしょ、真紘。どうせどこでも誰とでもうまくやれるんだから、新しい彼女探しなよ』

 高校時代、ドイツの日本人学校で同級生と付き合っていた時の会話だ。俺なりに彼女を大切にしていたつもりなのだが、『絶対に浮気する』と断言されて、心が閉じていくのを感じた。

 俺がどこへ行こうと、やっぱり誰にも惜しまれない。本当はとても寂しいしつらいのに、平気な顔をしていることに慣れすぎて、涙も出ない。

『ねえ、俺のどこが好きだった?』

 面倒な質問だとはわかっていたが、どうせ別れるのだからいいだろう。

 そう思って最後に尋ねてみると、彼女は人差し指を顎に当てて『うーん』と言いながら小首を傾げた。

『顔と、なんでもソツなくこなすところ?』
『……そっか。要は俺の外側ね』
『え、内面も言ったじゃん』
『そういう意味じゃない』

 煙に巻くように言い残したのを最後に、彼女との関係は終わった。

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