誘拐婚〜ある日、白無垢が贈られて〜
会社から歩いて十分ほどのところに、木造建築の和風の建物があった。

「こんな近くにあったんですね」

「最近できたらしい。海鮮丼がおいしいんだと」

引き戸のドアを開け、のれんを潜れば店員にすぐに席に案内してもらえた。お昼時なのだが何故か店内にいる人が少なく、「お座敷にどうぞ」と言われる。

「カウンターでも別によかったんですけどね」

「まあ、お座敷の方が広くていいだろ。これメニュー表」

メニュー表に書かれたおいしそうな海鮮丼たちに雅は迷いつつも、（また今度一人で来たらいいから、とりあえず今日はこれにしよう）と何とか決め、注文する。

頼んだ海鮮丼が運ばれてくる間、雅は計と仕事のことなどを話していた。主に話しているのは雅だが、計は優しく微笑みながら聞いてくれている。

計は雅より三つ歳上で、仕事ができるため多くの人に信頼されている。そして、艶やかな黒髪に華やかな顔立ちをしているため、多くの女性社員たちの視線を集めている人物なのだ。何故、こんなイケメンにご飯にしょっちゅう誘われたりするのだろうかと雅は疑問に思っている。
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