美琴ちゃん、大丈夫?
「何してんだよ!
由月!!」
振り向いた長谷川さんは、
穏やかに笑っている。
まるで、これから楽しいところに行くみたいな表情で。
「来ないで。来たら、飛ぶ。」
時山君は首を横に振った。
「ダメだよ…」
「やっと怖くなくなったの……やっと楽になれる。」
「なに、言ってんだよ……そこ危ないよ。こっちおいで、由月。」
「はあ。…もう疲れちゃった。私の人生なんてあってないようなもんだったし。もういいかなって。」
「…そんなこと言うなよ。」
後ろの扉が開いて、先生たちがやってきた。
「長谷川!?何してるんだ!!バカなことやめてこっちへ来なさい!!」
「…センセー方も。一歩でも動いたら、飛びますね。」
「…!」
「…みんな来てくれたし、最後に私の身の上話、聞いてくれる?
胸の内に秘めてきたこと全部、この世界に置いていきたいの。」
長谷川さんは清々しい笑顔のまま、それを口にした。
「私ね。ずっと義理の父にレイプされてたの。」
ザァ、と冷たく強い風が吹いた。
長谷川さんがぞっとするほど穏やかに残酷なことを言うから
そこにいた誰もがハッと息を止めて長谷川さんを見つめることしかできなかった。