美琴ちゃん、大丈夫?
その凍った空気と裏腹に長谷川さんはニコニコしながらクルンッと回り、
屋上の端を手を拡げて綱渡りするように歩き始めた。
細く白い足は、ちょっと風が吹いたら飛んでいってしまいそうに危うい。
それでもその様子をただヒヤヒヤと見守るしかできなくて、冷や汗が滲む。
「誰にも言えなくてさぁ、唯一相談できたのがたまたま隣の席になった純。
純に支えてもらってなんとか1年ぐらい耐えて、やーっと離婚してくれたと思ったら今度はママにそのことがバレて、あんたみたいな淫乱を育てた覚えはない!とか言われちゃってさ。
今、家の中はぐっちゃぐちゃ。」
まるで自分のことじゃないみたいに話す姿はすごく無邪気で楽しそうで、
狂気を感じた。
「こんな話、かわいそうでしょ?
恥ずかしくて誰にも言わないでって純にお願いしたの。
純はそんな可哀想な私を突き放せなくて今まで仲良くしてくれてたんだ」
「…違う。違うよ。」
時山君は小さく首を横に振って、震える声は怒ってるのか泣いてるのか、わからない。
「大丈夫。わかってるから。
…それでも私は純しか考えられなかったの。」
長谷川さんはフフッ、と可愛い笑みを浮かべる。
「可哀想な女のままじゃきっと好きになってもらえないから、今日まですっごい頑張ったんだよ?
メイクもおしゃれも超研究して、女の子たちに媚び売って友達作ってクラスの上位グループにいられるように努力して。
やっと純の隣が似合うようになってきたのにさぁ…」
長谷川さんが穏和な垂れ目で私を見る。