美琴ちゃん、大丈夫?
「純はあっという間に柊さんに夢中になっちゃった。」
空を見上げてはぁー…とため息をつく長谷川さんの頬に、一筋の涙が伝った。
「バカみたいじゃない?
私は汚い身体で必死に足掻いてここまでやっとたどり着いたのに。
柊さんはキレイでまっすぐで何でも持ってるのに、さらに純まで連れて行こうとする。」
震える声でそう言うと、息を吸って今度は開き直ったように声を大きくした。
「だから同じになってもらおうと思ったの!
フフフ。それでやっとフェアになると思わない?」
死んだ目で笑う長谷川さんに、横にいる唯が歯軋りして拳を強く握っている。
「…でもね。」
ひとしきり笑った長谷川さんの目が、明らかに変わった。
それまで強がっていた仮面が剥がれたように、弱々しくなる。
「私は、純を守ろうなんて一度も思ったことなかった。
ただ純がいなくなるのが怖かっただけで。
私を、見て欲しかっただけで。」
長谷川さんが泣いている。
普段の大人っぽい表情からは想像もつかないような幼い表情で。
きっと、これが本当の長谷川さん。
長谷川さんが向きを変えて私たちを背にした。
その先には、広い広い、空。
「…あ、ちなみに私と純、付き合ってないから。
さりげなく彼氏っぽいこと仄かしたらすぐ噂になっちゃってさ。
純も否定しないんだもん。
本当にそういうことみたいになってて。
ほんっとみんな、バカだよね。
…だから安心してね、柊さん。」
「…!」
その声音に彼女の覚悟が滲んで、
「…長谷川さん!」
私は彼女の方へ足を踏み出した。
「純は、純の好きな人を大事にしてね。」
「…由月!!」
叫ぶ時山君の横を抜けて、長谷川さんに手を伸ばす。
ゆら…と長谷川さんが前に倒れる。