美琴ちゃん、大丈夫?
声のした左側の方に目を向ける。
車両と車両をつなぐ扉の前に、男の人が立ってる。
さっきまで私の前にいた子猫が、その男の人の足元で顔を摺り寄せて甘えている。
男の人がきれいな手で子猫を抱き上げた。
…あれ?
あの人は…えっと…
サラサラな銀髪に、
ピアスが耳にたくさんと、鼻にも一つ。
そんなに寒くもないこの日にやけに着込んでるその服は、総じてパンクっぽい。
色白で甘いマスクのその人が、元々垂れ下がった目尻をさらに下げて微笑んでいる。
その笑顔は柔らかくて、暖かくて、とても優しい。
…知ってる。
わたし、知ってる。この人のこと。
えっと…名前、なんだっけ
どこで会ったんだっけ
たくさん話した
それに助けてもらった
…あれ?分からない
なんで?
なんでわからない?
なぜか具体的なことが思い出せなくて、その時感じた暖かい気持ちだけが蘇る。
絶対知ってるのに。
たくさん、知ってるのに。