美琴ちゃん、大丈夫?
いつの間にか時山くんの近くにいた長谷川さんが、白いタオルを差し出した。
「これ使って?」
「えっ、悪いよ。きれいな白いタオルだし」
「大丈夫。ほら」
長谷川さんが時山くんの顔にタオルを押し付けた。
「おブッ」
男の子たちがそれを冷やかし始める。
「フゥ〜!仲良しぃ〜!」
「ヒューヒュー!付き合っちゃえよ〜!」
「てか、おブッてなんだよ時山!あはは」
「うるせーぞお前ら!」
時山くんが周りにいた男の子3人をシッシッ、と制して長谷川さんに向き直った。
「由月ごめん、ありがとう。洗って返すから」
「フフ、いいよ別に。みんな面白いね〜。」
ニコッ。
「「「ッかーわーいーいー!!」」」
3人組が長谷川さんを囲んだ。
「時山じゃなくてさ、俺はどう?」
「いやいや、野球部のくせに80回のお前は黙ってろ」
「顔だけで言ったら俺が1番かっこいいと思わない?ね?」
「え〜。フフ、みんなカッコいいよ」
ポワワ〜ン。
鼻の下を伸ばす3人組を、時山くんが向きを変えさせる。
「はいはい、おしまい。お出口あちらでーす。」
「「「えぇ〜!」」」
楽しそうな時山くんたちをなんとなく見てると、耳元で声がする。
「…キィ〜!長谷川さんよりも私の方が絶対可愛いんだから!悔しい!ていうか、時山くんの汗と鼻血がついたタオルください!千円…いや、1万円出しますから!」
「…優花。勝手にアテレコやめてってば。」
「近からず遠からず?」
「遠い。ブラジルぐらい遠い。」
…嘘。タオルはちょっと欲しい。
みんなシャトルランの興奮がおさまって、次の体力測定の準備に入ってる。
私も優花とペアを組んで長座体前屈を始めようとした時
後ろから長谷川さんの透き通る声が聞こえてきた。
「先生。なかなか血が止まらないみたいなので保健室連れてっていいですか?」
「おぅ、悪いな長谷川。」
「え、いいよ。俺1人でいける。」
「いいから。保険の先生いなかったら困るでしょ。行こ、純。」
長谷川さんが時山くんの背中を叩いて、2人で体育館の外に歩いていく。
…時山くんと長谷川さんは、名前で呼び合う仲。
付き合うのも秒読みって噂されてる。
そういえば今日何回か時山くんと目があった気がしてたけど
もしかして隣にいた長谷川さんを見てた…?
…あー、絶対そうだ。
それなら辻褄が合う。
挨拶もしないわけわかんない女のことなんて見るわけない。
あぁ、一瞬でも舞い上がってしまった自分が恥ずかしい。
あー…恥ずかしい!
「…あぁ〜!」
そのままの勢いで前屈した。
「わーお、またしても記録更新ッ!」
「…」
今日はいい記録が出そう。