美琴ちゃん、大丈夫?
ご飯を食べ終えて、歯磨きして身なりを整え部屋を出ると、まだ起きたばかりの兄と遭遇した。
頭をかきながらまだ寝てる声で『おう』と言うと、また自分の部屋へ戻っていく。
今日は大学の講義、午後からなんだ。大学生って自由でいいなぁ。
鞄を持って玄関に向かう。
「いってきます」
家を出ると左にまっすぐ行ってすぐバス停…
なんだけど、
私はあえてその道を避けて遠回りする。
前田さんちのゴールデンレトリーバー、
ジョンのお散歩コースとバッティングするから。
ジョンは可愛いとは思うけど、むかし子犬に噛まれた経験から苦手…。
「ニャーン」
「!」
行き先に、子猫。
アスファルトの上にいい子にお座りして、好奇心旺盛なまんまるの目でこちらを見てる。
「ニャー」
白、黒、赤茶のマダラ模様の三毛。
鼻の横にある大きなホクロみたいな黒丸模様が特徴的。
…可愛い。
一生懸命鳴いて、なにか言いたげに見える。
「どうしたの?お腹すいた?」
子猫にあげられるようなものは何も持ってないなぁ。
「ニャーンニャーン」
近寄りすぎず、遠巻きにしゃがんで様子を伺ってみる。
…ん?
「君…どこかで…?」
そのとき、子猫の頭上をちょうちょが飛んでいく。
「…ニャッ!」
子猫はそれを追いかけて家と家の狭い隙間に飛び込んでいってしまった。
「あっ」
咄嗟に隙間を覗くと、真っ暗で子猫の姿は見えなかった。
どこで会ったんだっけな…思い出せない。
ま、いっか。
バス停に着くと、すでにいつものメンバーが並んでる。
前から、
プクッとしたお父さんと同年代くらいのスーツのおじさん、
いい匂いがするOLっぽい綺麗なお姉さん、
そして、
セーラー服を着た、私。
…以上。
いつもこの順番、このメンバー。
…いつも通りなのに、なんだか今日はやけに静かに感じる。
なんだろ?この、胸がモヤモヤする感じ。
そのモヤモヤを誤魔化すために、バスが来るまでスマホをひらいて時間を潰すことにした。
私はスマホのアプリ『パンリオシティーにおいでよ!』をタップしてゲームを起動する。
パンリオとは。
私が大好きなタヌキを模したキャラクターのポン介をはじめ、様々なゆるキャラを生み出して人気の会社。
そのパンリオが、キャラクターたちを動かして家を建てたり、作物を育てたり、街を散策したりできるゲームアプリを出した。
ポン介オタクの私、もちろん勉強の合間を縫ってやりこんでる。
今日も街をレベルアップすべく、いそいそと小麦を収穫したり乳搾りをしてるとあっという間に時間が過ぎていく。