美琴ちゃん、大丈夫?

憧れの人、幼い人、踏切の音。

『…』




あ。


また固まった。




部屋で1人、スマホを見ながら笑ってしまう。




「つーか…柊さんがカニ歩きって…」




隣の部屋の姉ちゃんに聞こえないように、クッ、クッ、と静かに笑う。



リアルとのギャップありすぎじゃない?

面白すぎんだけど。





最近やっと話してもらえるようになった柊さんは、ちょっとした有名人。



初めてその名前を聞いたのは、別に強くもないうちの空手道部に全中制覇したことのある女子が入ったという噂。


その次は芸能人みたいに可愛い女の子がいるという噂。


その次は、大学生と付き合ってるらしい、という噂。



一年生のとき噂だけ先に聞いてた俺は、

本物の柊美琴を見て一瞬で心を奪われた。



人形みたいに整った顔、サラッサラな黒髪、完璧なスタイル。
引き込まれそうな存在感のあるキレイな瞳。

なによりその、凛とした佇まい。


目で追わない男のほうがおかしいと思う。


ただ、あまりにも完璧すぎて…普通の男は近寄れない。
俺もその1人だった。



…あ。

柊さんのポン介が動いた。


俺もカニ歩きブロックしたろ。


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