美琴ちゃん、大丈夫?
栗色の猫っ毛、機能停止の声帯。
学校に着いて仲良く繋いでた手をほどき、下駄箱で上履きに履き替える。
「今日の一限目、確か小テストあったよね?」
「うっそ!やってない!」
「寺田先生がテスト7割以上出来なかったやつは追テスって言ってたよ。」
「にゃんと…!」
優花がショックで固まってる後ろで、唯が何かに気づいて歩き出す。
…!
「時山。」
栗色の、猫っ毛。
奥二重の丸い目。
「おー、九条!おはよー。」
鼻の詰まったような声に、
可愛い笑顔。
唯と同じワイシャツに学ラン、学校指定のスクールバッグを背負ってる、私の気になる人。
ふと、目が合った。
あ
えっと
唯に向けていた笑顔がなくなって、
少し気まずいような、
緊張したような顔になる。
それはきっと…私のせい。
「羽根村と…柊さんも。おはよ。」
「とっきやまくーん!おはよーぅ!」
優花がいつも通り元気に挨拶して、
つぎ、私。
「…」
『時山くん、おはよう。』
「…」
『時山くん!おはよう!!』
「…」
必死な心の声も虚しく、微動だにしない私の喉、硬く閉ざされた唇。
おーい。
「おんぶ」
場の空気など何も気にしない唯が、時山くんにのしかかった。
「えぇ?自分で歩きなさいよ」
時山くんが呆れながら言う。
「やだ。疲れた。よっこらせ。」
「重!しょーがないなー。」
脱力した唯をよいしょっと背負うと、ニッと笑った。
「行きますよ、坊っちゃん」
「くるしゅーない。」
「うぉっしゃー!」
時山くんは唯を背負って教室までタタタッと走っていってしまう。