美琴ちゃん、大丈夫?
翌日、私はキヨマサくんに言われた通りローカルテレビの高校野球にチャンネルを合わせた。


暇そうにしてる兄が「美琴が野球?珍しいね」と隣に座る。


「キヨマサくんが出るんだって」

「え!美琴の財布になりたがってるキヨマサ!?」


…言い方悪すぎか?



兄が手にしていたポテチを置いて食い入るように見始める。


「どいつだ?うちの妹に手を出したチンピラは…」


…フォロバしたのは自分のくせによく言う。




初回、浦高野球部は守り。

ピッチャーが帽子に手を添えて真剣な眼差しでサインに首を振ってる。






…ん?






アナウンサーが淡々とした口調で実況をはじめる。


『ピッチャーは大浦高校野球部のエース、日下部清政です。日下部は投手としてもバッターとしても優秀で1年生の頃から注目され…』



「…キヨマサくん。」


私は驚きのあまり持っていたリモコンをゴトッと落とした。



「え!?こいつ!?エースピッチャーだってよ!」


「…エース、どころか…」






『野球部の日下部』。




その名前を聞いたことのない人はおそらくうちの学校にはいない。



大浦高校が力を入れてる野球部で、一年生の頃から先輩たちを差し置いてピッチャーの座を死守してきた天才。

各プロ野球団が目をつけているという噂で、大浦高校にはよくテレビの取材やプロ野球の偉い人たちが出入りしてる。


大浦高校と言えば『野球部の日下部がいる高校』と言われるぐらい、その名をこの地区…いや、全国に轟かせている。



もちろん私も『日下部清正』という名前を知っていたのに、まさかキヨマサくんがあの『野球部の日下部』だったなんて思いもしなかった。



というか、私の知ってる超ハイテンションないじられキャラの『キヨマサくん』と、
テレビに映る真剣な『日下部清正』とのギャップが凄すぎて…同一人物と思えない。
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