美琴ちゃん、大丈夫?
キヨマサフィーバー、心臓の音、変なダンス。
「柊さん柊さん。日下部くん、あっちに行ったよ!」
「…あ、そうなんだ。」
「あ!柊さん!キヨマサ、朝から校門前で報道陣に囲まれてたぜ!」
「…へぇ〜。」
「あーあ、さっき日下部くんすれ違ったのになぁ〜!」
「…」
廊下ですれ違う生徒がみんな、聞いてもいないキヨマサくんのことを教えてくれる。
劇的なさよなら満塁ホームランから一夜明けた今日。
学校に来てみたらみんなすっかりお祝いムードで
私とキヨマサ君は、強姦犯から助けてもらった件も手伝ってキレイなドラマのヒーローとヒロインに仕立てられていた。
「…なんか、さらに有名になっちゃったねぇ美琴」
周りをキョロキョロしながら優花が言う。
「溺愛してくるウザいアイツは実はイケメンで超有名なスーパールーキーでした?」
…唯が無表情で恋愛小説のタイトル風に茶化してくる。
「…はぁ。」
私は色々と面倒になってため息をついた。
痛いほど感じる生徒たちの視線に耐えかねて、授業が始まるまで唯、優花とベランダでこっそり過ごすことにする。
「…実際どうなの?美琴の気持ちは。」
「…」
私は声を出す代わりに、優花の目を見て首を横に振った。
キヨマサくんはいい人だと思うけど…付き合うというのは、正直、考えられない。
「周りはもう成立したものとして盛り上がっちゃってるみたいだし、ちゃんと言ったほうがいいんじゃないの?『好きな人がいる』って。」
唯が頬杖をつきながら言う。
「…」
好きな、人…。
よぎるのは、こないだ突然頭に入ってきたあの夜の景色。
幻想?にしては妙にリアルな映像。
時山君っぽいんだけど…なんか違う、あの人。
そのモヤモヤのせいで私は、時山君へのこの気持ちがなんなのか、分からなくなってしまった。
「あ!!いたぁーーー!!!!!!」
「!」
…この元気な声は…