振られた私を御曹司が拾ってくれました。

家の近くの大通りは、タクシーが比較的捕まりやすい。
間もなくして、タクシーが近づいてきた。

手を上げて、停まったタクシーに乗り込んだ。


「帝都国際ホテルにお願いします。」


時間的に、ちょうど混雑する時間だが、奇跡的に車はスムーズに走った。
タクシーは30分程でホテルに到着することが出来たのだ。


（…氷室専務の夕食に間に合ったかな？）


ホテルのフロントに着き、名前を伝えると思ったより簡単にカードキーが渡された。
恐らく、氷室専務が言っておいてくれたから、怪しまれることなくスムーズにキーが貰えたのだろう。

前回、エレベーターで、秘書の桐生さんがしていたように、エレベーターのパネルにカードキーをかざして、最上階のボタンを押す。

ボタンを押すだけなのに、なぜか緊張する。

スーッと滑らかにエレベーターのドアが開き、部屋に到着した。

前回は気が付かなかったけれど、この部屋は良い香りがする。
氷室専務の香水なのか、シトラスの香りで、私の好きな香りだ。


そして、緊張しながらも部屋の奥に進むと、大きなテーブルには紙のメモが置いてあった。


『葉月さんへ　　もし急ぎの用事が無ければ、部屋で待っていてくれ。そんなに遅くならない予定だ。』


氷室専務は、私に手書きのメモを残してくれていた。

（…料理を置いたら、すぐに帰ろうと思っていたのに、緊張する…）

とりあえず、私は用意したハンバーグを、持ってきた皿に盛り付ける。
デミグラスソースは食べる直前が美味しいので、早めに帰れるのなら、かけずに待つことにする。