振られた私を御曹司が拾ってくれました。


「氷室専務!送って頂かなくても大丈夫です!」


氷室専務は、私の声が聞こえていないかのように、そのまま私をエレベーターに乗せ、地下の駐車場にへ向かった。
そして、白い高級車に近づくと、助手席のドアを開けた。


「さぁ、葉月さん、ここまで来たら観念して、素直に乗ってくれ。」


私は、しぶしぶと車の助手席に座った。逃げられそうにない。
すると、氷室専務は運転席に座って、眼鏡をかけた。
氷室専務が自ら運転するようだ。


「葉月さん、住所を教えてくれないか?」


私が住所を伝えると、カーナビに住所を入力して、氷室専務は車を走らせる。

車を運転している氷室専務の横顔を何気なく見ると、端正な顔に眼鏡がとてもよく似合っている。
美しいシルエットの横顔を、眼鏡が引き立てているようだ。
近くで見ると、本当に氷室専務はカッコいい。思わず見惚れてしまう。
私がジッと見ていることに、気づかれてしまったようだ。


「葉月さん、そんなに僕が運転するのが珍しいかい?そんなに見られたら、なんだか恥ずかしいな。」

「い…いえ…違います。…ごめんなさい。」


氷室専務は、前を見たまま私の頭をポンポンと叩いた。


「謝る必要は無いだろ。」


顔が熱くなるのが分かる。
私は焦り、何か他の話題を探した。


「あの…氷室専務はご自分で、よく運転されるのですか?運転手の方がいらっしゃるのに…。」


すると、チラリと一瞬こちらを見て、氷室専務は微笑んだ。


「うん、実は運転手なんて、必要ないのだけれど、会社が許してくれなくてね。考え事をするときは、一人で車を走らせるんだ。運転するのが好きなんだ。」

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