振られた私を御曹司が拾ってくれました。
ほどなくして、車は家の近くの路地に差し掛かった。
「氷室専務、もうここで大丈夫です。この辺で降ろしてください。」
「うん。」
氷室専務は、返事はしたものの、いっこうに車を止める気配がない。
すると、小さなコインパーキングを指差した。
「葉月さん、そのパーキングに車を止めるね。」
「氷室専務!パーキングに停めなくても、降ろしていただければ大丈夫ですから!」
慌てている私の顔をチラリと見ると、氷室専務は片眉と口角を上げた。
「葉月さん、僕が家の近くに行くと、何か不都合なことがあるのかな?」
「…い…いいえ…別に…特には…」
氷室専務は困った顔の私を見て、クスッと笑う。
「さぁ降りて、葉月さんの部屋まで送るよ。」
「…そんなぁ!」
車から降りた私の腕を掴むと、氷室専務は私を引っ張るように歩き始めた。
もうこれは、断れない感じだ…私は観念してアパートへと案内した。
私のアパートは2階の一番奥の部屋だ。階段を上り、部屋の前に到着した。
私は鍵を開ける前に、氷室専務の方に振り返る。
「あの…本当に狭いので…驚かないでくださいね。」
「うん。大丈夫だ。」
大丈夫と言われても、何が大丈夫なのか全く分からない。
私は鍵をカシャンと音を立て回して、ドアをそっと引いた。
「狭いですが、よろしければどうぞ…」
私に続き、氷室専務が家の中に入って来た。
どう思われるか、凄く不安になる。
「葉月さん、とても女の子らしい清潔感のある部屋だね。やっぱり僕の思った通りだ。」
「…思った通りって?」