振られた私を御曹司が拾ってくれました。
「桐生さん、…氷室専務は、本気でルームシェアを考えているのでしょうか?」
「さぁ、私には分かりかねます。ただ、貴女にとっても、悪いお話ではないと思いますよ。…それでは、駐車場でお待ちしております。」
桐生さんは表情を変えず、淡々と話をする人だ。要件を伝えると、すぐに去って行ってしまった。とても断れる雰囲気ではない。
私は急いで帰る支度をして駐車場へと急ぐしかなかった。
「遅くなりました。お待たせして申し訳ございません。」
駐車場の入り口で待つ、桐生さんを見つけて声を掛けた。
「氷室専務がお待ちです。ご案内します。」
桐生さんは駐車場の奥に進み、黒い大きな高級車の前で止まった。
そして、後部座席のドアを開ける。
「葉月さん、来てくれたんだね。」
私に声を掛けたのは、既に車に乗っていた氷室専務だ。
車の中で、ノートPCを開き仕事をしていたようだ。
私はてっきり桐生さんが、マンションの案内をしてくれると思っていたので驚いた。
氷室専務が自分で案内をしてくれるらしい。桐生さんは一緒に行かないようだ。
私が車に乗ると、氷室専務は運転席に声を掛けた。
「新しいマンションまでお願いします。」