振られた私を御曹司が拾ってくれました。
会社の駐車場を出た車は、20分程走ると、超高層のタワーマンションに到着した。
いかにも高級そうなマンションだ。
「葉月さん、このマンションの最上階の部屋なんだ。気に入ってくれると良いけど。」
氷室専務が車を降りたのに続き、私も車から降りて後ろを追いかけた。
マンションの入り口を入ると、まるでホテルのフロントのような作りになっている。
コンシェルジュも常駐しているようだ。
氷室専務は、フロントで立ち上がる女性に微笑んで会釈をすると、さらに奥へ進んでエレベーターのボタンを押した。
エレベーターのドアが、スーッと静かに開くと、氷室専務はニコリとしながら私の背中を軽く押した。
「葉月さん、どうぞ先にお乗りください。」
氷室専務は普通のつもりかも知れないが、この端正な顔で微笑まれると、心臓がドクンと大きく鳴ってしまう。
「あの…氷室専務…」
私が何か言おうとした時、氷室専務は私の言葉を遮るように話し始めた。
「葉月さん、会社の外では、専務と言わないで欲しいな、なんだか堅苦しくて疲れるから、駿でいいよ。」
「そんな…名前でなんて…無理です。」
すると、氷室専務は悪戯な表情で片眉を上げた。
「じゃあ、僕も名前で呼ばせてもらおうかな…琴音。」
氷室専務に名前で呼ばれると、急に顔が熱くなった。
さらに心臓がうるさく鳴り始める。
そして、エレベーターは最上階まで昇り、スーツとドアを開ける。
エレベーターを降りると、目の前はもう家のドアだ。
最上階は、この一軒だけのようだった。
少し大きめの、重厚感がある扉を開けると、広々とした空間が広がっている。
この玄関だけでも、私が住んでいたアパートくらいの広さがあるように感じる。