振られた私を御曹司が拾ってくれました。
しばらくすると、病室のドアをノックする音が聞こえて来た。
「コン、コン、コン」
そして、ゆっくりと静かにドアが開けられた。
ドアのほうを見ると、長身でスーツを着た男性が入って来た。
「おい…気が付いたか?大丈夫なのか?」
私は慌てて起き上がろうとした時、その男性はそれを止めた。
「起き上がるな…寝ていろ…俺は無事が分れば、すぐに退散する。」
よく見ると、上質そうなスリーピースを着たその男性は、とても端正な顔立ちで、横に立つと、かなりの長身なのが分かる。眉目秀麗な男性だ。
そういえば、看護師の女性もかなり素敵な男性と言っていたのを思い出した。
「あ…あの…ありがとうございます…」
男性は、ニコリと微笑んで私の頭をポンと叩いた。
「理由は聞かないが、こんな寒い日にベンチで寝るなんて、死のうと思っていたのか?しかし、間に合って良かったよ…もうあんな馬鹿なマネはするなよ。」
その男性はそれだけを言うと、すぐに病室を出ようとした。
私は、慌ててその男性に呼びかけた。
「な…名前を、教えてください。お礼を…したくて…」
男性は振り返り、優しく目を細めた。
「俺は、駿(しゅん)だ。礼などいらないから、ゆっくり休めよ…」
“しゅん”と名乗ったその男性は、そのまま病室から出て行ってしまった。