振られた私を御曹司が拾ってくれました。

「琴音、恐い思いをさせてしまったな、許してくれ。」


駿は優しく私の頭に手を置いた。


「祥子さんは、なぜここに来たのでしょうか?」


駿は表情を暗くした。そして申し訳なさそうに話し始める。


「今日も祥子さんから食事に誘われたんだ、でも家に帰る用事があると断ってしまったんだ。後をつけられたのかも知れない。」


どうやら、祥子さんは駿の許嫁だが、それだけではなく駿を好きなのだ。
もしそうだとすれば、祥子さんの行動もすべて納得できる。
駿と同居している私が許せないのだろう。

すると、駿は顎に手をあてて、何か考えている。
しばらく目を閉じ、ゆっくりと瞼を上げた。


「琴音、しばらくの間はここに居ると危険かもしれない。祥子は何をしてくるか分からないからな。」

「では、私はどうすればいいのですか?」


住んでいたアパートも、引き払ってしまったばかりだ。
実家に帰ることもできるが、実家から通勤は難しい。実家から会社までは片道3時間以上かかりそうだ。


「琴音、僕には良い考えがある。」

「良い考えとは?」

「桐生の家に頼んでみよう。あいつが居れば安心だしな。」

「そ…それは…ダメです。多分、桐生さんにもご迷惑だろうし…。」


駿は何をいきなり言うのだろう。確かに桐生さんのところには、祥子さんも行かないはずだ。
しかし、桐生さんの家にお世話になるのは、とても気まずい。
先日、冗談かもしれないが、告白のようなことを言われたばかりだ。


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