振られた私を御曹司が拾ってくれました。
「琴音、なんでそんなに桐生を嫌がるんだ?あいつなら安心できる。家も一人暮らしだが、広いはずだ。」
「で…でも…」
これ以上言ってしまうと、桐生さんを駿が疑ってしまう。
いくら部屋が広いと言っても、男の一人暮らしだ。
駿は本気で言っているのだろうか。
翌日、駿は本気だったようだ。
少し遅くなったお昼休み、私が席を立とうとした時、桐生さんがスイーツ開発部に入って来たのだ。
「葉月さん、お話があります。少しよろしいでしょうか。」
桐生さんは、私の席の隣に置いてあった椅子に座り、話し始めた。
「先程、氷室専務から昨日の話を伺いました。祥子様がいらっしゃったみたいですね。専務はとても葉月さんを心配していましたよ。どうぞ、今日からうちに来てください。マンションにお迎えに参りますので。」
桐生さんは、表情も変えずに淡々と事務連絡のように話をした。
動揺していたのは、私だけだったようだ。少し恥ずかしくもなる。