振られた私を御曹司が拾ってくれました。

桐生さんには、今朝、高橋という男が会社に来た事、お金を渡そうとした事、駿と別れるように言われたこと、そして最後に言っていた、危険な目に合うかも知れないと言われた事、すべてを話してみた。何か知っていることがあるかも知れない。

桐生さんは、その話に頷きながら、目を閉じて聞いている。
そして、私の話が終わると、ゆっくり瞼を上げた。


「私が知っているのは、まずその高橋という男性は、氷室専務のお父さんの秘書兼、氷室家で執事をしている男です。とても冷静で、頭が切れる男と聞いたことがあります。」


やはり、駿のお父さんが関係していたのだ。私のことを調べていたに違いない。
そして、桐生さんは、顎に手をあてて、少し考えるように話し出した。


「これは、あくまでも私の想像ですが、恐らく氷室専務のお父さんである社長と、二階堂祥子の父親、二階堂晴臣が、何か自分たちの利益になるようなことを企んでいるのでしょう。その、何らかの理由のために、氷室専務と祥子さんを早く結婚させたいのだと思います。」

「それでは、自分たちの利益のために、それぞれの我が子を政略結婚させると言う事なのですか?」

「まぁ、よくある話ですけれど…そうなると、葉月さん、あなたはとても邪魔な存在ということですね。だから手切れ金を払って、早く別れさせようとしているということだと思いますよ。」


分かってはいたことだけれど、思った以上に大変な事に巻き込まれているのだ。

「それと…さらに厄介なのは、祥子さんは、氷室専務を好きだという事でしょう。二階堂晴臣も娘が氷室専務を好きなら、喜んでこの話を進められますしね。お二人の結婚は、決まったようなものかもしれません。」

桐生さんの言葉に、胸が締め付けられる。
顔から血が引いていくのを感じた。恐らく顔色は、真っ白だったかも知れない。

すると、桐生さんは突然驚くような質問をしてきた。

「葉月さん、あなたは氷室専務を愛しているのですか?」

「…それは…よく…分からないのですが、でも、氷室専務とこのまま離れたくありません。一緒に居たいのです。」

すると、桐生さんは大きく息を吐いた。

「葉月さん、私はあなたが、この会社の面接試験に来た時に会っているのです。」

「…そうだったのですか?」

「僕は面接を横から見ていただけなのですが、あなたはスイーツが大好きで、そのことをとても嬉しそうな表情で話をしていましたね。…そして、氷室専務の就任パーティーで、美味しそうにケーキを食べるあなたを見つけたんです。あの時の面接の子だってね…」

「…そんなに美味しそうに食べていましたか?恥ずかしいです。」

桐生さんは、楽しそうに笑った後、急に真面目な表情をした。

「面接で見たあなたを、私は無意識に探していたのかも知れません。そして、あなたを見て確信しました、私は恋をしていたのだと…僕はあなたを危険な目に合わせたりしない。ずっとこの手で守りたい…僕ではどうしてもだめですか?」


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