振られた私を御曹司が拾ってくれました。

翌日の朝、私が起きた時にはもう桐生さんの姿はなかった。
顔を合わせなくて済んだことに、少しホッとしている。
もう忘れろと言われても、どんな顔をして会えばよいのか分からなかったからだ。


「おはようございます。」

会社に到着して、私はスイーツ開発部の課長に挨拶をした。
すると、課長はなにやら慌てている様子だ。
どうしたのだろうと、思って立ち止まった時だった。

「…そうだ、葉月さん、朝から悪いけど、緊急で出張してくれないかな?」

「…出張ですか?」

「そうなんだ、実は今日から始まるスイーツフェスティバルを担当する佐伯さんが、事故で怪我をしてしまったんだよ。怪我は大したことは無かったようだが、フェスティバルには行かれないと連絡が入ったのだ。…悪いが葉月さん代わりに行って来てくれないかな?午後からイベントも開催されるんんだ。」

フェスティバルは大阪で開催する予定だ。新幹線を使えば3時間くらいで到着できる。

「はい。すぐに向かいます。午後のイベントには間に合うと思います。」

私は急いで必要な荷物を用意すると、会社を飛び出した。
急な話で驚いたが、スイーツフェスティバルは、一度行ってみたかった。
怪我をした佐伯さんには申し訳ないが、代理で参加できるのは嬉しい。

ただ、この時私は、あの高橋という男が言っていたことを、すっかり忘れていたのだ。

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