振られた私を御曹司が拾ってくれました。
このスイーツフェスティバルは、各企業が新作のスイーツを発表する展示会でもある。
そして、午後から行われるイベントでは、人気お笑いコンビが司会をして、人気投票などが行われる予定だ。そのため、お客様の来場者数はかなりの数だろう。
私は会場に到着して、うちの会社の展示ブースを探した。
展示ブースに到着すると、大阪支店のメンバーが忙しそうに接客をしていた。
「遅くなりました。東京本社から参りました、葉月琴音です。よろしくお願いします。」
すると、40代くらいの男性が、紙コップにコーヒーを入れて私に差し出した。
「東京から大変ですね、どうぞコーヒーをお飲みください。」
「…ありがとうございます。」
とても優しそうな表情の男性だ。私は差し出されたコーヒーを飲もうとしたその時、後ろにいた女性がそのカップを取り上げた。
「葉月さん、飲まないでください。」
「…え?」
飲むなと言われたことも驚いたが、それよりもこの突然あら現れた女性は誰なのだろうか。
私は驚きすぎて固まってしまい、言葉が出ない。
「…このコーヒーに、何かの薬を入れましたね。私は見ていましたよ。」
コーヒーを差し出した男性は、かなり動揺しているようだ。
「失礼な女だな…お前は誰なんだ!」
すると女性はクスクスと笑い始めた。
「そういうあなたこそ誰なのでしょうかね?私は葉月さんをお守りするように言われたボディガードなのですよ。」
女性の話を聞いてさらに驚いた。私を守るボディガードがいたなんて思いもしない事だ。
その男性は、その女性を恐い目で睨むと、そのまま逃げるようにどこかに去って行ってしまった。
その男は誰だったのだろう。今日は応援のアルバイトや他支店からの応援もあり、誰もその男を怪しく思わなかってようだ。
男が去った後、わたしはその女性に聞きたいことが沢山ある。
「…助けてくださって、ありがとうございます。でもなぜ私を守ってくださるのですか?」
その女性は、少し口角を上げて話し始めた。
「私は氷室専務から、葉月さんをお守りするボディーガードを依頼されたのです。二階堂晴臣や祥子は何をするか分かりませんからね。」
「氷室専務があなたに依頼したのですね。」
「はい。今も間に合って良かったです。あの男は隠れてカップに何か白い粉を入れていたのです。恐らく睡眠薬か何かでしょう。」
この会場に来るまで忘れていたが、会社に訪ねて来た高橋という男が、危険な目に合うかも知れないと言っていたことを思いだした。
まさか、本当に狙われるようなことが現実にあるとは思っていなかった。