振られた私を御曹司が拾ってくれました。


「俺はもう父さんの操り人形じゃないんだ。」

駿は珍しく大きな声で叫ぶように声を出していた。

すると、社長室の奥のドアが開き、誰かが出て来た。
ちょうど、社長と歳は同じくらいに見える。


「二階堂さん!」


駿はその男性に向かって名前を言った。
どうやらこの男性が二階堂晴臣らしい。
晴臣は目が鋭く、周りを圧倒するような威圧感のある男だ。


「駿君、久しぶりだな。…確かに娘が夢中になるのが分かるよ、いい男になったな。」


駿は何も言わないが、両手をグッと握って何かを堪えているように見える。


「二階堂さん、僕は祥子さんと…け…」

駿の言葉を遮るように、晴臣は言葉を出した。

「駿君!君は祥子と結婚すると決まっているんだ。いまさら何を考えているんだ。君はこの会社を潰す気か?」

「…は?潰すとは、どういう事ですか?」

すると、駿の父親である社長が話し始めた。

「今、この会社は中東への事業を拡大しているんだ。食品に加え石油関連の事業にも携わることになる、それには顔の広い二階堂さんの口利きが必要なんだ。中東にも信用のある二階堂さんが身内になってくれれば、この事業もすぐに軌道に乗ることが出来るだろう。お前はこの会社の社員や家族を、路頭に迷わせるつもりなのか!」

駿はこの話を知らなかったようだ、驚きのあまり言葉を失っている。
そこへ追い打ちをかけるように晴臣が口を開いた。

「もう、既にこのプロジェクトは動き始めている。日本の銀行にも、中東の投資家たちも早く納得させなくてはならないぞ。…駿君よく考えることだな。」

晴臣はゆっくりと立ち上がると、駿の肩に手を置いた。

「駿君、良い返事を待っているよ。祥子も喜ぶだろう。」

駿はその場で固まり、下唇を噛みしめて震えていた。
晴臣はそれだけ言うと、静かに社長室から出て行ってしまった。


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