振られた私を御曹司が拾ってくれました。


「きっと、誰かが気づいて私を助けてくれます。」

何の根拠もないが、アジームの想い通りにはなりたくなかった。

(…駿、助けて…)

この船には、アジームの友人も数名乗船していた。
夕食を兼ねて、小さなパーティーを用意しているとのことだ。

私が案内された部屋にいると、一人の女性が訪ねて来た。
この船の従業員のようだ。


「葉月琴音様、アジーム様よりドレスを用意するように言われました。お持ちしてよろしいでしょうか?」

「…ドレスですか?」


女性は一度部屋の外に出ると、カラカラと何かを運ぶ音を立てた。
そして、見えて来たのは、キャスターの付いたハンガーラックだ。
そこには、色とりどりの美しいドレスが掛けられている。


「葉月様、この中からお好みのドレスをお選びください。本日の夕食はアジーム様のご友人とパーティーが行われます。その時にお召いただくドレスです。」


パーティーなど出たくないが、ここから逃げることもできない。
仕方なく、私はドレスの中で一番シンプルなデザインの物を選んだ。
ミモザ丈で光沢のあるグレーのドレスだ。布地が光に反射してとても美しい。


太陽が西に降りてきて、水平線に光の道が出来てキラキラと波を輝かせている。
そろそろディナーパーティーが始まるようだ。

私は、先程用意してもらったドレスを着て会場に行こうとした時、脱いだ服のポケットが微かに光っていることに気が付いた。


服のポケットに手を入れた瞬間に思い出した。


これは、ボディガードの未来が私に渡してくれた、クマのマスコットだ。
クマのお腹あたりがピカピカと光っている。
未来が言っていたことを思いだした。このクマのマスコットは、GPSが付いていると言っていたのだ。

光っているということは、GPSが動作しているという事なのではないだろうか。

(…未来が気づいてくれているかも…)


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