【書籍化】離縁前提の結婚ですが、冷徹上司に甘く不埒に愛でられています(秘書室の悪魔とお見合いしたら)
そのはじまりは今でも鮮明に覚えている――
オレンジ色の柔らかな日差しが射し込む、ふたりきりの終業後の秘書室。
私の言葉を受けたダークスーツのその人は、端正な顔から眼鏡を取り払うと。どこか面白がるようにして一歩、一歩、近づいてきたの――
「――まぁ、とにかく……見合いをするもしないも……決めるのはあなたです――」
艶のある低い声。
コツコツと響く革靴の音。
朝から一切乱れのない質のいいダークスーツ。
そして、たった今。サラリと揺れた黒髪の下からは、涼し気な美貌が余すことなくオープンとなった。
「えっ……あの、ちょっと、まって。なんでいきなり――」
予告なく近づいてきた、ふだんのポーカーフェイスからは想像のできない、悪戯に上がる口角と、ぞくっとするほど艶かしい色気に圧され、自然と私の足は後退していく。