【書籍化】離縁前提の結婚ですが、冷徹上司に甘く不埒に愛でられています(秘書室の悪魔とお見合いしたら)

 彼がなんて呼ばれているのか、うちの企業で知らない人はいないだろう。

 ――秘書室の悪魔。

 うちのグループセクレタリーのゼネラルマネジャー。

 常に冷静沈着で。誰よりも仕事に忠実。

 冷ややかな物言いは、周囲に取り入るすきを与えないと言われてるいるけれども。

 ダークスーツを纏う冷涼な美貌は、誰もが一度は見惚れてしまうほどだ。

 みんなは、そんな彼をどこか敬遠しているけれども、私は偶然彼の優しさに触れ、密かに思い続けてきた。

 だけど。まさか、こんなことになるなんて――。

 ひとしきり私を翻弄した薄い唇は、最後にちゅっと下唇をもてあそんだあと、移動した耳元で密やかにささやいた。

「――ほらね、こんなふうに。あなたみたいに無防備な人は、軽々と食べられてしまうかもしれない」

 ペロリと自らの唇を舐めて。それから、ぼんやりとする私の唇を指先で拭って。

 艶やかな微笑みを浮かべて忠告したのだった。

 あぁ、どうやら私の5年越し恋は、とんでもない転機を迎えたみたい――。

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