【書籍化】離縁前提の結婚ですが、冷徹上司に甘く不埒に愛でられています
「ようやく戻ってきましたか……」
淡々とした抑揚のない声。
無人の秘書室の後方、総務フロアとの仕切りに体重を預ているその彼を見て、目を見張った。
「ゼネラル、マネージャー……」
窓から射し込む夕日により浮き出る端正な顔立ち。長い中指で眼鏡を押し上げる様。
な、なんで、ここに……?
そう考えつつも、すぐに思い至り、足を動かす。
「お疲れ様です、室長にご用事ですか? もしかしたら兼任している総務の方にいるのかも――」
だいたい統括の彼がここに立ち寄るときは、英子室長と話したいときだ。
平然を装い彼の前を通り過ぎ、総務フロアに続く扉へ手をかけようとしたそのとき――。