魔法の使い方2 恋のライバル、現る!?
 エルシニアが去った後、ミーナは当然の疑問を口にした。

「あのエルシニアってお嬢様は知り合い? 懐かれてたみたいだけど」
「あんたが実家に帰ってる間、城下の巡回中にひったくりが現れたんだ。あそこは貴族が多いし、高級品を身につけた奴らばかりだからな」

 ヴィオルドが通りかかったとき、ちょうど窃盗犯がエルシニアからカバンをひったくっていった。それを見つけた彼は現行犯逮捕したという。彼のことだから、無駄のない動作で迅速に犯人を抑えて取り返したのだろう。それ以降被害者だったエルシニアに気に入られ、付きまとわれている。

 しかしヴィオルドは仕事をこなしただけであり、当たり前の対応だった。それだけで好意を寄せられるのは不本意である。そして甘やかされて育った彼女は自分を中心に考えがちで、少々迷惑にさえ感じている。

「あのお嬢様は大抵の事は思い通りになってきただろうからな。俺のことも同じように考えているんだろう。自分が好きになったのなら、自分を好きになって当然と考えている」
「なるほどねー。とりあえず私を巻き込まないところで好きにやってちょうだい。さっき睨まれたのよ」
「もう遅いと思うがな……。貴族相手に俺も強くは出られないし。それにあいつが店に来ることで、ユリウスさんに迷惑がかかるのは避けたい」
「この際、貴族の座でも狙えば? 不自由しないと思うし、そうすれば私もユリウスさんも何事もなく皆ハッピーエンドよ!」

 面白がる様子でまくし立てる。展開が気になる小説を読んでいる最中のように、瞳を輝かせて頬は上気している。ヴィオルドはこいつ楽しんでるだけじゃないかと呆れた表情でミーナを見る。

 そんな二人をなだめるように、カウンターの向こうから静かに事態を見守っていたユリウスが口を開いた。

「エルシニア嬢はお店に不利益をもたらすわけでも、備品を壊すわけでもないし、何も問題はないと思うよ。この先、他のお客さんの邪魔をするのなら注意することはあっても、今のところ無害だからね」
「そうね。向こうが何もしない限り、私も何もしない。ヴィオはせいぜい頑張ってね」

 彼女はニヤリと意地の悪い笑みを浮かべて楽しそうに言う。「頑張って」とは言ったものの、その意思は微塵も感じられない。

「あんたが面白がる展開には絶対しねぇから」

 分が悪いと感じたヴィオルドは、珍しく渋い顔で捨て台詞を吐いた。
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