魔法の使い方2 恋のライバル、現る!?
 しかしユリウスの読みは甘かったらしい。エルシニアは翌日、再び来店した。刺繍やレースをふんだんにあしらったドレスは豪勢なうえ派手であり、大きなエメラルドがはめ込まれた金細工の髪飾りも負けていない。朱い髪は彼女の気性を表しているようで、エルシニアの表情は険しかった。

「あの女店員はいるかしら?」
「私のことですか?」

 高飛車に言い放ったエルシニアに素早く反応した。営業スマイルは崩さない。

「ええ、アナタよ。ヴィオルドとは仲が良いのかしら?」
「まさか! 弱味を握ってギャフンと言わせてやりたいくらいです!」

 エルシニアに敵対されては面倒なので、ミーナは親密な関係でないことをここぞとばかりに主張した。

 返答を聞いた彼女は興味なさげな表情で感想を漏らす。

「ふぅん? まぁ、衛兵の中でもそこそこ名のある人みたいだし、こんな町娘なんか相手にしないでしょうけれど」
「ええと、それはどういう……?」
「決まってるわよ。どこの貧乏な労働者かは知らないけれど、そんな小娘が将来性のある衛兵の実力者と釣り合いが取れると思って?」

 エルシニアの失礼な振る舞いに、言葉が詰まる。この令嬢は人をイラつかせる天才なのだろうかと、本気で考察しようか悩みさえした。というのは大袈裟(げさ)であるが。




 本来ミーナは魔法の名家出身であり、かつて一族の中には王室の顧問魔法使いをしていた者だっている。そんな彼女を「貧乏な労働者」とはお門違いであるうえ、懸命に働く人を馬鹿にする言い方にも問題がある。そもそもの話として、彼女はヴィオルドと恋仲でない。

 しかしミーナは言い返したい気持ちを抑えて、引きつった笑顔で無理やり口を開く。相手にしたら負けだと自分に言い聞かせて。

「さ、左様でゴザイマスネ……」
「あら、案外素直なのね。理解したのならもう彼に近づかないことね」
「いや仲良くないんですけどね……」

 誤解を解きたいが、下手に刺激して逆上されては困るのでボソボソとささやかに主張する。案の定エルシニアへ届かず、小さな声は空気に吸収されていった。
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