魔法の使い方2 恋のライバル、現る!?
 エルシニアはヴィオルドが巡回するルートや立ち寄る場所を調べていたみたいで、ヴィオルドは度々彼女に遭遇した。彼に会うと、蜜のような甘ったるい声をかけては腕を絡ませてくる。良家の令嬢をぞんざいに扱えないため、振り払うことはできない。

「エルシニア嬢、俺のような者と噂が流れたら傷つくのは貴女でございますよ」
「あたくしのことはエルシーでいいって言ってるじゃなぁい」
「なりませんエルシニア嬢。俺は一介の衛兵です」
「つれないわねぇ。そういうトコロもステキよ?」
「これ以上は仕事の妨げになりますので、腕をほどいてください」

 ヴィオルドは事務的な口調を崩さずにエルシニアをたしなめた。淡々と言い放つ彼にエルシニアはしぶしぶ離れる。伏せている(みどり)の瞳からは感情が読めない。アップスタイルの朱毛は額から(おく)れ毛が流れており、陽光に照らされながら風に揺れていた。

「このあたくしを邪魔ですって……」

 エルシニアの小さな声は髪を揺らす風にかき消された。彼女はヴィオルドを一度も見ることなく彼に背を向け、裕福層が行き交う街の喧騒へ消えていった。

 ヴィオルドは突然のことに驚く。何が起きたのかすらも理解できず、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていた。今の状態をミーナに見られたら、一生笑われるに違いない。

 だが、いつまでもそうしてはいられない。もしエルシニアがヴィオルドを告発すれば、彼がクビになる可能性もある。特権階級の貴族とはそういうものだ。やっと掴んだこの場所を、ヴィオルドは易々と手放すわけにはいかない。
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