魔法の使い方2 恋のライバル、現る!?
「あー、それは完全に怒らせたわね。明日にでもクビが飛ぶんじゃない?」

 昼下がりの陽歌(ヒラルス・カヌトス)でミーナは魔法薬の書物から目を離さず、目の前の青年に言葉を返した。しかしユリウスの言葉で彼女の態度は瞬時に一変する。

「そうなったらヴィオルドにはウチで働いてもらえばいいさ。男手があって困ることはないからね」
「ヴィオルド、失業なんて嫌よね! 不本意だけど協力するわよ!」

 本から目を離し頭を上げたミーナはまくし立てるようにヴィオルドへ詰め寄った。変わり身の早さに軽く苦笑いしながら、ヴィオルドは彼女の肩に手を置く。

「わかったから落ち着け」
「そうね。私の労働環境をヴィオから守らないと……」

 おとなしくなったミーナはその後もブツブツと呟く。ヴィオルドは華麗に無視して、仕事に戻る準備を始めた。動く度に赤と黒を基調としたジャケットを縁取る金装飾がきらめく。この制服を脱ぐことになりたくないというのが彼の本音だ。その点で彼女と利害が一致している。

「今日の夕方四時。警備隊本部の裏にある訓練場に顔を出してくれ」
「私が行くの? 用があるなら自分で来なさいよ」
「俺の雇用がかかってるんだ。事情を知る同僚の数は増やした方がいいだろ?」
「一理あるわね。ユリウスさん、その時間席外していいかしら?」
「もちろんさ。行ってくるといい」

 ミーナとヴィオルドが顔を見合わせて頷いたあと、彼はテーブルに食事代を置いて店の出口へ向かった。カラカラとベルの音を立てながら扉が開かれる。

 彼女は彼の方を見ずに、再び魔法書へ視線を落としていた。
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