魔法の使い方2 恋のライバル、現る!?
王都警備隊本部へ向かうミーナ。彼女は勤務中ではないため、髪を下ろしている。艶やかな髪が歩く速さに合わせて揺れ動き、スカートが花のようなシルエットを作り出す。
彼女は自分で気づいていないが、彼女の容姿は人の集まる王都でも霞むことなく美しい。
「あらぁ、いつかの女店員じゃない。あれから如何かしら?」
間延びした声をかけられてミーナが振り向くと、エルシニアが一人立っていた。朱い髪を結い上げ、羽根付き帽子を乗せている。意思の宿っていない緑の瞳からは、感情を読み取れない。
「エルシニア嬢。いかがと言われても、そもそも初めから何もないのよ」
店の中ではないし、そもそも「お客様」ではなく腹立たしいだけの相手なので、敬語を使うのを辞めた。この際だから言いたいことを言ってしまおう。
しかしエルシニアは言葉遣いに対して気を止めることなく、口を開いた。
「あたくしね、貴族の男性から求婚の手紙は多くもらうのよ。欲しいものを言えば、あたくしを慕う男は何でも手に入れてくれたの。何でも手に入ったから、何かに焦がれるなんてこと一度もなかったわぁ。こんな気持ち、初めてよ。ドキドキして、どうしても欲しいって思ったの。けれど、全く相手にされないなんて」
エルシニアはミーナの方を見ずに言葉を続ける。
「子爵家の令嬢で、美しくて、求婚が後を絶たない程人気なこのあたくしが自分から気に入ったというのに、あの男はあたくしを邪魔だと言ったのよ。男なんて近づいて微笑みかければ尻尾を振ってついてくると思ったのに」
「それは違うわ」
彼女はエルシニアの言葉を遮った。どこか遠くを見ていたエルシニアはハッとしたようにミーナへ焦点を合わせる。
「誰にだって感情があるわ。貴女にもあるように。それぞれの人に、それぞれの歩む人生があるの。みんな、貴女の欲を満たすために生まれてきたわけではない」
「生意気な労働者ねぇ……」
「世の中は、思い通りにならないことの方が多いのよ。例えばさ、魔法って使える?」
「馬鹿な質問ねぇ。使えないに決まってるじゃない」
彼女はカバンから簡易杖を取り出す。30cmくらいのシンプルな棒の先端に小さな水晶がはめ込まれているものだ。
一歩下がってエルシニアから距離をとるミーナ。杖を自分の前に構えて呪文を唱えた。
「Phíxèn suŕ läşheŕtë」
彼女は自分で気づいていないが、彼女の容姿は人の集まる王都でも霞むことなく美しい。
「あらぁ、いつかの女店員じゃない。あれから如何かしら?」
間延びした声をかけられてミーナが振り向くと、エルシニアが一人立っていた。朱い髪を結い上げ、羽根付き帽子を乗せている。意思の宿っていない緑の瞳からは、感情を読み取れない。
「エルシニア嬢。いかがと言われても、そもそも初めから何もないのよ」
店の中ではないし、そもそも「お客様」ではなく腹立たしいだけの相手なので、敬語を使うのを辞めた。この際だから言いたいことを言ってしまおう。
しかしエルシニアは言葉遣いに対して気を止めることなく、口を開いた。
「あたくしね、貴族の男性から求婚の手紙は多くもらうのよ。欲しいものを言えば、あたくしを慕う男は何でも手に入れてくれたの。何でも手に入ったから、何かに焦がれるなんてこと一度もなかったわぁ。こんな気持ち、初めてよ。ドキドキして、どうしても欲しいって思ったの。けれど、全く相手にされないなんて」
エルシニアはミーナの方を見ずに言葉を続ける。
「子爵家の令嬢で、美しくて、求婚が後を絶たない程人気なこのあたくしが自分から気に入ったというのに、あの男はあたくしを邪魔だと言ったのよ。男なんて近づいて微笑みかければ尻尾を振ってついてくると思ったのに」
「それは違うわ」
彼女はエルシニアの言葉を遮った。どこか遠くを見ていたエルシニアはハッとしたようにミーナへ焦点を合わせる。
「誰にだって感情があるわ。貴女にもあるように。それぞれの人に、それぞれの歩む人生があるの。みんな、貴女の欲を満たすために生まれてきたわけではない」
「生意気な労働者ねぇ……」
「世の中は、思い通りにならないことの方が多いのよ。例えばさ、魔法って使える?」
「馬鹿な質問ねぇ。使えないに決まってるじゃない」
彼女はカバンから簡易杖を取り出す。30cmくらいのシンプルな棒の先端に小さな水晶がはめ込まれているものだ。
一歩下がってエルシニアから距離をとるミーナ。杖を自分の前に構えて呪文を唱えた。
「Phíxèn suŕ läşheŕtë」