魔法の使い方2 恋のライバル、現る!?
 本に書いてある通りの呪文を唱えながら、緑に濁った鍋の中身を混ぜ合わせていくミーナ。一字一句間違えないように、魔幻語を紡ぐ。

Ŕætïs tĭhü ãsuŕ(悪夢の) đġerġ il(闇よ),
 phíxèn yĥuï víshèn(光に消えろ).

 Bŷgĕzh suŕ ċim(焔のなかで) şhônţe ýöly(踊る子ども),
 és kiňïş đġerġ suŕ(終わらぬ闇の) ëhõţi(子守唄).

 Çías il élè(それらは全て) fíňön mú(朝陽に) víshèn tĭhüã hesůmě(消える夢なのです).」


 しばらくミーナがガラス製の棒でかき混ぜていると、鍋の中の液体が淡く光り始めた。さらに続けてガラスの棒を回すとやがて光は消え、中の液体から濁りが消えていた。

 透き通った淡い緑の液体は少しドロッとしている。それを小さな透明の瓶に入れて栓をした。瓶にラベルをつけ、羽根ペンでサラサラと「悪夢除け」と書く。あとはヴィオルドに渡すだけだ。




 薬が完成したあと、彼女は接客をしながらヴィオルドが来るのを待っている。店に入った瞬間を逃してはならない。彼の来店をこんなにも心待ちにしていたことがあっただろうか。

 夕方になるにつれ、客の数は増えていく。店内にはオレンジの光が差し込み、どこか寂しげな陰を落とす。しかしヴィオルドはなかなかやって来ない。どうでも良いときには現れるくせに。入れ替わり立ち替わりで去って行く客を見送りながら、扉の外ばかり確認していた。

 日が暮れて薄明るい紫の空が広がっても、ヴィオルドは現れなかった。練習台と言ってしまったし、もう彼は来ないのかもしれない。ミーナはせっかく助けられると思ったのに、と沈んだ気持ちになる。

 客の賑わいも既に遠のき、洗い終わった皿をユリウスと拭くことしか今はやることがない。しかし単純作業は、気を紛らわすのに丁度良いのかもしれない。
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