魔法の使い方2 恋のライバル、現る!?
 ヴィオルドの部屋に入り、ランプに火を灯す。はたきで軽く掃除して、周りを見渡した。簡素なベッドと机が配置され、机の上には読み書きや計算練習したあとの紙が無造作に重ねられている。

 【明けぬ夜(ポラル・ノクシア)】にいた頃は犯罪に必要な最低限の読み書きしか学べなかったため、ヴィオルドはここでユリウスに高度な読み書きを教わった。

 高水準な教育を受け、魔幻語さえもあやつれるミーナには目から鱗だ。彼女は自分の目を通してヴィオルドが歩んできた人生が、本当に壮絶なものだったのだと改めて実感する。



 そっと紙に手を伸ばす。彼女の動きにそって、机上に置いたランプの火が揺れる。

 この紙を通して少年時代のヴィオルドの温もりを感じられそうな気がした。実際にそんなことはなく、ただ乾いた紙の感触しかなかったが、不思議な満足感があった。

「俺も掃除手伝うか? それにランプひとつじゃ暗いだろう。もう一つ持ってこようか」

 突然聞こえてきたヴィオルドの声でミーナは我に返る。はっとして視線を部屋の入り口に移すと、ヴィオルドがドアの枠にもたれるように立っていた。廊下から漏れる光で逆光になり、表情は読み取れない。

「あ、もう終わるから大丈夫」
「それ、懐かしいな」

 ヴィオルドは彼女の返事には反応せず、手元にある紙を見ていた。ミーナは手を離し、机の前の場所を彼に譲る。その足で掃除を再開した。ヴィオルドはどこか遠くを見るような眼差しで、昔のことを呟く。

「十三歳のときここに来て、十六で衛兵に入ったんだ。それまでユリウスさんに勉強を教えてもらっていた」

 十六歳、今のミーナと同じ年である。彼女も今年から働き始めたので、小さな共通点を嬉しく感じた。それを悟られないよう、平静を装って掃除を続ける。ランプひとつでよかった。部屋が薄暗いおかげで、誰も彼女の表情を認識できない。

 充分に埃を落としたあと、ミーナは思い出に浸っているヴィオルドに声をかけた。

「とりあえずこんなものかしら。これで快適に寝られるとは思うけど」
「ありがとう」
「私、部屋に戻るね。隣だから、何かあったら呼んで」
「ああ」

 優しく扉を閉めて隣の自室に戻った。
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