魔法の使い方2 恋のライバル、現る!?
 その後、ミーナは上の空だった。幸運なことに、今日は客が少なく粗相をして怒らせることはなかった。しかし、いつもより手元が覚束なかった。本人はそれさえも気づいていない。

 店仕舞いのあと、お風呂上がりのミーナは乾かした髪を整えてヴィオルドの部屋へ向かう。先程の呼び出しに応じるのだ。

 エルシニアによると、風呂上がりの女性というのは魅力的に映るらしい。彼女はそれを実行してみることにする。

「ヴィオ、入っていい?」
「ああ」

 ドアをノックしてヴィオルドの返事を聞き、ミーナはドアノブをゆっくり回して恐る恐る部屋に入る。中ではヴィオルドが椅子に座って本を読んでいた。

 彼女は部屋に入り、彼の向かいに置かれたもう一つの椅子に座る。何があるのかとドキドキしながらそれを隠した声音で訪ねる。

「それで、何の用かしら?」
「聞きたいことがあったんだ」

 ヴィオルドは本を閉じ、サイドテーブルに置いた。彼女の方を真っ直ぐ見てゆっくり口を動かした。

「お前は、なんで俺から離れないんだ? 普通、人殺しだと知ったら避けるだろ。それなのに、何故だ?」
「その、と、友達だし……」

 急な問いかけに答えが思いつかず、ありきたりな答えになってしまうミーナ。顔を薔薇色に染めながら目を逸らして答えた。

「あんたの口から『友達』と言われる日が来るとはな、驚いた」
「い、いいじゃない別に」

 好きだから、なんて言えるわけがない。彼女はこのあと何を言われるのかと不安になり、部屋を出たい気持ちになる。

 しかし話題を打ち切るため部屋を出ようとミーナな立ち上がって背を向けようとするも、ヴィオルドは彼女が去ってしまうよりも早く言葉を紡いだ。

「哀れみか? 安っぽい同情はいらない。そんなことでお友達ごっこをしようとは思わない」
「そんなこと――」
「俺は、お前とは住む世界が違うんだ。日の当たるところでのうのうと生きていけるわけじゃない」

 いつもの言い合いとは違う。それはヴィオルドの目が物語っていた。微塵も笑っておらず、冷たさだけがそこにある。ミーナは怖くなって後ずさった。
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