魔法の使い方2 恋のライバル、現る!?
「……どれだけ手を伸ばしても、俺には届きっこないんだ」
「でも、じゃあ、どうしてフィルはいいのよ……!」

 ミーナは震える声で精一杯言葉を返す。感情的になっていた彼女は、この言葉しか紡ぎ出せなかった。

 彼はミーナの言葉の後に一瞬の間を置いたあと、目を逸らしながら呟く。

「……あいつは、俺と同じカタリカ王国の出身だ。【明けぬ夜(ポラル・ノクシア)】の被害者の一人なんだ」

 その一言で彼女は理解した。そして嫉妬心がお門違いだということにも気づき、恥ずかしくなる。今まで自分は何を見ていたのだろう。

 彼のために何かできないかと思っていたくせに、追い詰めることしかできなかった。一方的に想いを寄せ、自己満足のために彼を助けようとしていた。”可哀想な想い人を助けようとする優しい私”の像に、勝手に酔いしれていただけ。

 魔法が人より使えることを知り、人より優位に立ったつもりでいたのかもしれない。さながら慈善事業で貧困層に寄付する上から目線の貴族のように、“持たざるものへの憐れみ”を他人に抱いていたのかもしれない。あるいは自分は特別な存在だと、思い込んでいたのかもしれない。

 自分が本当は何を考えていたかを悟ったミーナは激しい自己嫌悪に陥り、自分にはヴィオルドといる資格がないと思い始める。

「そう、だったのね……。ごめんなさい、今日はレネの家に泊まるわ」
「俺とは関わらない方がいい。ここにはもう来ない」

 彼女はそれ以上部屋にいられなくて、俯きながら走って部屋を出た。ネグリジェのまま、不思議そうな顔をするユリウスを通りすぎて外へ抜ける。

 誰もいない路地でミーナは嗚咽を漏らして泣いた。こんな風に泣くのは、久しぶりだ。涙はどんどん溢れ、永遠に湧いてくるようにも思える。皮肉なことに、空は晴れ無数の星が美しく輝いていた。まるで醜い彼女を嘲笑っているかのよう。

 暗い路地で、魔法使いの少女は人知れずひっそりと泣いていた。
< 73 / 88 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop