「先生」の壁
「その、自分のこと『先生』って言うのやめません?」

「なんで?」

「私、一条先生じゃなくて、一条智成さんと話がしたいです」

「君、おもしろいこと言うね」

 先生は私から目を逸らして、はは、と軽く笑った。頬杖をついて私に視線を戻す。

「そういう君も、先生のことを『先生』って呼ぶじゃないか」

「当り前じゃないですか。先生は、先生、だから…」

「じゃあ、相川さんも先生のこと、『先生』って呼ぶのやめなよ」

「え?」

「俺も相川さんのこと、穂波って呼ぶからさ」

 突然のことにみるみる頬が熱くなるのが分かる。

「先生、私のことからかってますよね?」

「からかってなんかないよ」と言いながら、ししし、と意地悪な微笑みを浮かべた。

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