誘拐婚〜ある日、ウエディングドレスが贈られて〜
「お待たせしました。こちらの花束でよろしいでしょうか?」

老紳士の奥さんは、華やかなものが大好きだったそうだ。そのため、フローラは華やかな雰囲気がある花をたくさん用意し、花束にした。

花びらの数が多い芍薬、雪が降り積もったかのような白く小さな花が枝いっぱいに咲く雪柳、花が上へ向かって咲くルピナス、情熱的な恋を思わせるバラなど、華やかな雰囲気の漂う特別な花束がフローラの手にはある。

老紳士はジッと花束を見つめた後、ニコリと微笑んで「ありがとう、妻も天国で喜ぶよ」と言いお金を取り出す。

「あなたの婚約者も、きっとあなたに素敵な花束をプレゼントしてくれるんだろうね」

老紳士の言葉に、フローラはすぐに「婚約者どころか恋人すらいませんよ」と返す。すると、老紳士は不思議そうに首を傾げた。

「おや、ならどうして薬指に指輪があるんだい?」

「えっ?」

フローラが左手を見ると、薬指にピンクダイヤモンドの使われた華やかな指輪が嵌められている。だが、こんな高価そうなものをプレゼントしてくれるような相手はフローラにはいない。そもそも、指輪などしていなかったはずだ。
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